父祖伝来の製法を子孫に伝えよ
高橋家後継者のみが知る父祖の想念

十二代目 高橋精記
高橋家に伝わる家伝書。

一子相伝の製法が代々受け継がれてきた高橋家。そこには一巻の家伝が残されています。その家伝の巻頭に曰く「銘酢製造秘伝左ノ如シ 秘伝代々相続人ヨリ外一切如何ナル場合ト雖モ見スル事無用ノ者也 右子々孫々相守可キ者ナリ」。 三百年間、脈々と受け継がれてきた酢造製法は、微妙な気候変化を感じ取る長年の勘が命でもあり、労苦も絶えません。己が苦労の末に見出した製法を伝えたい一心で書き残した祖先の家伝には、子孫にはその艱難辛苦を少しでも軽減させてやりたいという「親心」も隠されているのです。

いい酢作りは子育てに似て
目を離さず、手を抜かず

豊かな大地の恵みを原料に 伝統技法そのままの玄米黒酢づくり
有機玄米くろ酢の原料は米、水、麹の3つ。いたってシンプルです。しかし、だからこそ原料の良し悪しが酢の味に表れます。有機玄米くろ酢は、熊本県などの農家から仕入れた有機農法の玄米を使用しています。玄米自体が化学肥料や農薬に汚染されていないのはもちろん、周囲の環境や水も汚染されていないこと、玄米本来の自然の風味であることが条件なのです。「生産者の顔が見える関係」であるため、時には農家へ出向き、その目で農法を確かめてもいます。 有機玄米くろ酢の仕込みはそれぞれ春と秋のお彼岸前後の年2回。有機玄米を蒸し、麹米を加え混ぜます。
仕込水を入れた甕に麹米と蒸し米を混ぜ、麹を振り入れて液面に浮かせて仕込みます。土中に半分埋まった仕込み甕は昔から使ってきた大甕。この陶器甕が太陽熱を吸収し、発酵を促すのです。紙蓋は和紙に柿渋とフノリを塗ったもの。これに墨痕鮮やかに仕込み年月日を書き入れます。

元気に育っているか?わが子に問う父の愛情に似て

仕込み甕の中で発酵作用が静かに進みます。良質の麹菌が米を糖化させ、酵母菌の作用で酒となり、そして表面に張った酢酸菌の働きで酢に変化していく。微生物による酢造りの神秘的な過程。しかし、それを黙って菌に任せているのではありません。甕造りの静置発酵には「手入れ」と呼ばれる人の介助が必要です。仕込み甕の中の3ヶ月間、時折紙蓋を開けては菌膜の状態を見極め手入れをします。菌膜の状態は甕ごとに異なり、まるで個性を持っているかのようです。「子育てに似ている」。酢職人はそう言います。
3ヶ月の静置発酵期間を無事終えた若い酢は、貯蔵タンクでいよいよ熟成の時を迎えます。秋分の日前後に仕込んだ酢が熟成に入るのは冬の冷え込みが厳しくなる頃、春分の日前後に仕込んだ酢は夏の暑さが増す前。「暑さ寒さも彼岸まで」の言葉が、有機玄米くろ酢造りの世界でも生きているのです。

庄分酢のおいしさのヒミツ

日本の食卓に欠かせない酢だからこそ
伝統を守りつつ、時を受け入れる

築八十年の昭和蔵の中で
庄分酢では一年中純米酢や醸造酢などの食酢を醸造しています。しかし、その製法はやはり発酵・熟成に時間をかけた丁寧なものです。大事な菌の手入れも玄米くろ酢同様に行われます。発酵させるのは築八十年余りの土蔵造りの蔵の中など。二十石の木桶や発酵槽の中に入れられ、ゆっくりと時を過ごします。
発酵中の酢は金属類を腐食させるため、木桶や蔵の造りには金属類の使用を極力控えています。また、蔵の中は通気性に優れ、夏は涼しく、冬は暖かく、一年中温度が安定しています。それでもやはり、酢職人たちは菌を見守り、微生物の働きを促してやります。冷え込みが厳しければ布団を被せるように木桶にむしろを巻いてやり、暑ければ蔵の戸を開けます。絶えず「酢の成長」を気にかけているのです。

決して急がない、目先にとらわれない。
古い蔵の中で発酵させるにはもうひとつ理由があります。

時代を経た蔵の中には「蔵付き菌」と呼ばれる菌がすみ着いています。老舗の酒蔵や酢醸造元の古い蔵には必ずあるもので、いわばその蔵の母なる菌。その菌が酢を育て、まろやかな味を醸すのです。蔵発酵、タンク貯蔵を経て、薄い琥珀色の落ち着いた酸味と香りを持つ酢となります。職人が味、色合い、香りを確かめ、厳格な品質管理のもと、ようやく、ろ過・殺菌の最終過程になり、商品として出るのです。
速醸酢に比べると、はるかに時間も手間もかかります。それでもこの方法を三百年間変えていません。無論、温度管理などには現代の技術も導入しています。それでも基本的な酢造りの製法は昔ながら。急いで多く造ればいい、とは決して思わないからです。むしろ、庄分酢はその対極でいることに誇りを持っているのです。