今週の本社発酵蔵では、すこし早目の春仕込みをしています。
庄分酢の甕仕込みは父祖伝来の製法から、年二回、春秋のお彼岸の時期に行うのが習わしになっています。
地面に半分埋まった大甕での静置発酵法は、この地域の気候や風土に根差した独特の方法です。
暑すぎず・寒すぎない、温度の安定した時期に開始して、真夏や真冬が来る前に酢酸菌の菌膜をはらせてしまおうという理由だったのでしょう。
お酒造りの菌(麹菌・酵母菌)とお酢造りの菌(酢酸菌)では、好きな温度が違うので、両方を一つの甕で行う庄分酢の方法では、特に温度に注意が必要なのです!
このような製法をまとめた巻物が残っているのですが、そこには理由や理論は書いてありません。
ひたすらに試行錯誤をした結果の作業内容が、淡々と記されています。
この伝統製法も常に工夫の繰り返し。今年も気候や気温に合わせて丁寧に仕込んでいきます。
いつもは3月中旬~下旬の仕込みが多いのですが、今年は早くも1本目の仕込みをしています。
予め、水と米麹を仕込んでおいた甕に・・・・
蒸し器で蒸した米を運び・・
入れていきます・・・
勢いよく入れすぎると水面が跳ねるのでここも丁寧に投入します。
この時点では米は甕の底面に沈んでいきます。
”えぼり”と呼んでいる櫂棒で、すばやくかき混ぜ・・
この作業単純に見えて、とても難しいのです・・ 底に沈んだ仕込み米が甕のなかで舞い上がるように混ぜるのは実はとても力が必要で、但し乱暴に力任せにやってしまうと甕の側面に棒がぶつかり甕が割れてしまう可能性があります。とても大変かつ繊細な棒さばきが求めるんです・・!
手作りでつくられて大甕は、今では新品が手に入らないため、替えがきかずある意味ドキドキの作業です・・
仕込み量を測ります。
(空寸と呼ばれる独特の方法で、液面から甕の淵までの高さを測ります。日本酒など醸造の現場でよくみられるやり方です。)
仕込みの時期前に用意しておいた和紙ふた。
柿渋の独特の香りがします・・
甕の丸みに合わせしっかり被せて・・
甕の形もそれぞれ違うので、しっかり馴染ませてやるように合わせていきます。
縄で縛ります。
(実は、結び方も工程の時期によって変えていきます。初日は蝶結び。)
仕込みの脇をかためる道具達・・
最後に、和紙ぶたに筆を入れます。
この筆入れの作業も、ただ文字を書くのではなく、責任をもってこの甕を発酵させますという思いを込めてやりなさい、と伝えられてきました。
これからこのなかで麹が、米のでんぷんを分解し糖を作ります。
その糖を酵母菌が食べてお酒を造ります。
最後に蔵付酢酸菌が、お酒から酢を造ります。
麹→酵母→酢酸菌・・このリレーがうまいこと進んで初めて美味しい酢ができるのです。
酢職人の仕事はこのリレーがうまく進むように環境を整えてやるだけなのです。
機械をほとんど使わない、この方法や多くの手間と時間がかかりますが、じっくり発酵させるため酸味がまろやかな酢を造ることができます。
庄分酢のおいしさの秘密のなかにもでてくる、酢造りが子育てに似ている、というベテラン職人達の言葉はまさにその通りだと感じました!
こうして作るのが、甕仕込みのにごり酢です。それを熟成したり濾過することで他のお酢もできていきます。
300年前から続く伝統的な静置発酵法も、日々の微妙な環境の変化に対応することで、今につながってきたのだと思います。
”お彼岸に仕込む”といっても、300年前のお彼岸と今のお彼岸では気温も若干違うはず・・
時間の流れるなかで庄分酢の蔵付きの菌達も、酢職人達も少しづつ変化しながら伝統を守っているのです。
また最近では、今まで感覚的に日本人が取り入れてきた発酵食品や菌そのものの研究も進んできて、いろんな良さが分かってきました。
酢酸菌や乳酸菌は、菌そのものを取り入れることで免疫力がアップし、花粉症やアレルギーにも良いということも分かってきています。
日本人が古来から取り入れてきた発酵の力がひとつづつ理由が分かってきている気がしますね!
私たちお酢を造る者としては、とても嬉しい限りですね・・・
これから3月下旬にかけ本格的に春の甕仕込みのシーズンに突入します。
甕のなかで1か月ほどかけてお酒ができ、さらに2か月ほどかけてゆっくり酢にかわっていきます。
菌のちからを浴びながら元気よく、美味しい酢を造ってお届けできるよう頑張ります!
今年もどんな発酵をしてくれるか今から楽しみです。